不幸にして歯を失ってしまった後に、「有益性/リスクの比率」を尺度に従来の歯科治療とインプラント治療を比較して、より自分にとって総合的に有益であると思われる選択肢を決定することが大切。又それが、自分自身の状況でインプラント治療が適しているかどうかの判断の一助にしていただければ幸いです。しかし、実際の治療では患者さん一人ひとりが個別の状況にあり、条件がわずかに異なるだけで、その人個人にとって最善の治療法が異なってくることがあります。また、インプラント治療は、通常の歯科治療よりも多くの治療スタッフが関与するほか、特別な器材が必要であり、治療の期間や回数も多くなるため、患者さんにとっての経済的側面も実際の意思決定には重要な要素となるでしょう。このほかにも、多種多様な細かい要素が最終決断に関わってくることになります。 そのような、あなた個人の状況を分析し、最終決断の手助けをしてくれるのは、あなたの主治医とそのスタッフです。インプラント治療は、すべての歯のない状況に対する万能薬ではありません。また、決してもとの自分の歯がそのまま戻ってくるわけでもありません。ただし、いくつかの条件が整えば素晴らしい治療効果をもたらしうる画期的な治療法なのです。まず、あなたの置かれた状況でのインプラントの可能性と限界について、信頼できる主治医に相談し、不明な点があれば分かるまで質問することが大切です。長期的な見通しも含めて理解し、十分に納得した上で治療に望むことが、あなた自身の健康そしてQOLを高めるための鍵だと言えるでしょう。その結果、心身ともによりよい状態にもっていくことができれば、人間関係もよりスムーズになり、歯の悩みからくるさまざまな悪循環の鎖を断ち切ることができるはずです。さらに、ここでしっかりと考えていただきたいのは、主役、つまり歯科医療の主体者は患者であるあなた自身であるということです。自分の健康、自分の体は自分で守るのだという意識あるいは気概ともいうべき心構えをもって、治療にのぞんでいただきたいと思います。昨今、医療の世界では、インフォームド・コンセントあるいはインフォームド・チョイスという言葉とその概念が注目を集めています。医療を提供する側と受け取る側の関係が、徐々によい方向に進みはじめていることの象徴のようです。ただし、医療があなたになしうることを医療提供側から最大限に引き出すためには、自分自身でもできるかぎり勉強し、判断レベルの向上に努めることが肝心です。自分が受ける歯科治療の中身を深く理解すればするほど、医療提供側とのコミュニケーションが取りやすくなり、それがめぐりめぐって結局は自分自身のためになります。歯科医師やデンタルスタッフは、あなたにとって最も有益な歯科治療法を選択するうえでのパートナーです。この人たちと十分に相談したうえで、しっかりと考え、最後には自主的な判断にもとづいて治療法を選択することが、あなたにとって最善の結果をもたらすのです。 |